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1 マリリン・モンロー・Bye Bye Baby「紳士は金髪がお好き」より
1957年二ユーヨーク在住のマリリン・モンローは、プラザホテルに事務所を置くF.L.ライトを訪問した。予め電話を受けてゐたライトは、喜んで彼女を招じ入れた。当時アーサー・ミラーと結婚してゐたモンローは、コネチカット州ロックスバリーに、夫と自分と将来生まれる子供たちのための住居の設計を依頼した。巨きな円形のリビングルームには映写設備があり、二階には広い育児室や子供部屋が設けられてゐる。しかしそれからの彼女の精神の乱れ〜離婚と、徒に時は経過し、この住居は実現することなく終つた。

椿の花はモンロー、その上のアクソメ図はライトの落水荘。
miller house Arther Miller House,Project

2 フレデリック・ディーリアス「パラダイスへの道」
くろは今、極楽といひ、またパラダイスともいふ彼岸において、楽しい日々を送ってゐるであらう。私にしてもそこへ行くのはさう遠い将来のことではない。その時はくろ達はきつと喜んで迎えてくれることと思ふ。

The Walk to the Paradise Garden … フレデリック・ディーリアス作曲。

3 ちがった空「ギャビン・ライアル」1932〜2003、ロンドンにて逝去
ちがった空(1961)、もっとも危険なゲーム(1963)、深夜プラス1(1965)、本番台本(1966)。ギャビン・ライアルは、この四作があれば満足。「ちがった空」が宮崎駿「紅の豚」に影響を与えたといふ説があるが、どうも賛成できかねます。

ダヒラのために…フレデリック・ショパン、12の練習曲作品25より、第7番嬰ハ短調。

4 三好達治「桃の花」
「桃の花」三好達治・短歌集「日まはり」より。
もろもろの
想ひのはてよ
落葉松のしづ枝にたちて
松の香をかぐ

武満徹作曲「夢の引用」 — Say sea, take me ! — for Two Pianos and Orchestra ,1991.

5 三好達治「もものはな」
「もものはな」三好達治「花筐」より。
「夢の引用」のサブタイトル " Say sea , take me ! "
E・ディッキンソンの詩の一節。

My river runs to thee:
Blue sea , wilt welcome me ?

My river waits reply .
Oh sea , look graciously !

I'll fetch thee brooks
From spotted nooks , -

Say sea ,
Take me !
 
6 フィニアス・ニューボーンJr.「君はわがすべて」
君はわがすべて、ALL THE THINGS YOU ARE…アルバム「HERE IS PHINEAS」より。
HERE IS PHINEAS : Phineas Newborn Jr. (p), Oscar Pettiford (b), Kenny Clarke (dr)

ここにあるのはまぎれもない青春の姿だ。それは蒼空そのものである。来し方を顧みることなく、行く末を案じることもなく。
この処女作の後リリースされたフィニアスの作品を聴いてみたことがある。その中のどれひとつとして此のデビューアルバムに及ぶ演奏はなかつた。

花をや夢と誘ふらん…閑吟集

7 山下達郎「さよなら夏の日」
「さよなら夏の日」山下達郎・作詞作曲
かつて宗教が占めてゐた位置を、現代では恋愛が奪つてしまつた。「夏が終ると、その一年が終つたやうな気がする」と言つた男がゐた。

8 塚本邦雄「罌粟の丈」
「肉体という仮象をとおして、想像上の存在を愛していて、ある日、それに気づいたとしたら、このこと以上に無惨なことがあるだろうか。死よりも、はるかに無惨である。なぜなら、死によっても、愛する人が存在していたという事実にかわりはないのだから。これは、想像によって愛を育てていた罪に対する罰である」シモーヌ・ヴェイユ

弦楽四重奏のための「抒情組曲」アルバン・ベルク作曲

9 小林秀雄・レクイエム
「歴史は鏡だ、過去の鏡に自分が映る、人間の顔が映る。さういふ考えがなくなつてしまったんです。歴史は映るものではない、変へるものだといふ考えになつてしまつたと思ふのです。今日の参考にするために、歴史といふ鏡を自己に映してみるといふやうな謙遜な立場がなくなつて、もう鏡なんかみなくなるのでせう」
「現代に生きる歴史」小林秀雄

歴史とは「過去と現在との対話」に外ならない。現在の立場にだけ立つて過去を一方的に裁く事ほど傲慢でおそろしい事はない。
   
10 エドガー・アラン・ポー「黄金虫ーユリの木」
ユリの木…別名チューリップツリー。学名リロデンドロン・トゥリピフェルム。もくれん科、ユリノキ属。原産地北米、60mにも達する落葉高木。葉はプラタナスに似る。花期は5〜6月。
起原の古い植物で、白亜紀にまで遡る。おそらく恐竜の最後の生き残りに食物を提供してゐたに違ひない。ポーの「黄金虫」においては、海賊キッドが、隠した財宝の目印に、ドクロをユリの木の枝先にとりつけたのだが、この木は落葉樹のはずである。冬になつてすっかり葉のおちたあとの枝先のドクロは、「木守り」のように、ずいぶん目立つことだらう。作品の舞台であるサウスカロライナ州では、落葉しないのだらうか。

11 中勘助「小品四つ」〜「秋草」
読みをへて思はず、ほう…とためいきが出る、そんな作品である。
「小品四つ」は、「秋草」、「小箱」、「折紙」、「あしべ踊」、以上四編の佳品からなつてゐる。中勘助全集 第二巻から、「後記」を引用する。

「初出未詳ながら、昭和十年四月五日、岩波書店刊『母の死』に「小品」として収められた二十編中に「秋草」「小箱」「折紙」の題で収録されている。ちなみに他の十七編はすべて「銀の匙」「孟宗の蔭」「沼のほとり」「しづかな流」からの抄録である。角川書店版全集では第一巻(昭和三十五年十二月五日刊)に収録されており、本全集はこれを底本とした。『母の死』では「折り紙」と題された一編が、底本収録に際して「折り紙」「あしべ踊」の二編に分割された、すなわち「小品四つ」である。」

昭和十四年刊「沼のほとり」
「私は死を望んではゐない。生を望んでもゐない。私が心から望むのは『私』が存在しなかつたことである。」

12 宮澤賢治「銀河鉄道の夜」〜「天気輪の柱」

六、銀河ステーション
そしてジヨバンニはすぐうしろの天氣輪の柱がいつかぼんやりした三角標の形になつて、しばらく螢のやうに、ぺかぺか消えたりともつたりしてゐるのを見ました。それはだんだんはつきりして、とうとうりんとうごかないやうになり、濃い鋼青のそらの野原にたちました。いま新らしく灼いたばかりの青い鋼の板のやうな、そらの野原に、まつすぐにすきつと立つたのです。

筑摩書房「校本・宮澤賢治全集第十巻」所収「銀河鉄道の夜」

今回は、懸案であつた「銀河鉄道の夜」から、銀河鉄道出発点の「天気輪の柱」を作品にした。「天気輪の柱」の形については諸説あるが、ここでは私の勝手で「オベリスク・サンダイアル」をモデルとした。

13 中勘助「小品四つ」〜「小箱」
銀の匙の主人公が十七歳の夏、親しい友人の別荘ですごすくだりがある。友人には姉がゐた。彼は美しい姉様とふたりで夕餉をともにすることになる。

「お料理人がなれませんで……。お氣にめしますかどうか。

とすこしはにかむように皿のうへに眼をそらせてほほゑんだ。そこにはお手づくりの豆腐がふるへてまつ白なはだに模様の藍がしみさうにみえる。姉様は柚子をおろしてくださる。淺い緑色の粉をほろほろとふりかけてとろけさうなのを と とつゆにひたすと濃い海老色がさつとかかる。それをそうつと舌にのせる。しづかな柚子の馨、きつい醤油の味、つめたく滑つこいはだざはりがする。それをころころと二三度ころがすうちにかすかな澱粉性の味をのこして溶けてしまふ」

読んでゐるこちらが、姉様の口うつしでたべてゐる心地になる。美しい姉様は、小品「秋草」のモデルとおぼしい。

くつきりとした眉毛のしたにまつ黒な瞳が光つてゐた。すべての輪廓があんまり鮮明なためになんとなく慣れ親しみがたい感じがしてすこしうけ口な愛くるしい脣さへが海の底の冷たい珊瑚をきざんだかのやうに思はれたが、その口もとが氣もちよくひきあがつて綺麗な齒があらわれたときに、すずしいほほゑみが一切を和らげ、白い頰に血の色がさして、彫像はそのままひとりの美しい人になつた。

14 中勘助「小品四つ」〜「あしべ踊」
さうしてふと幼少の折のことを思ひだした。そのじぶん私はあまりに美しいものの刺戟に堪えかねて…その息のつまりさうないらだたしい惱を今も感ずる…それを無茶苦茶にしてしまふことがよくあつた、たとへば草雙紙の繪を墨で塗りけしたり、麥藁細工の綺麗な箱を踏み壞してしまふといふやうに。そしてこの頃でさえも私の五感はそれが謂う所の快感を齎す場合のみを考へても已に大きな重荷である。もしこのうへなにかの感官があつたら私は感覺に殺されてしまふであらう。「貝桶」

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