ギャビン・ライアル「ちがった空」

パラダイス   桃の花
ちがった空
「あなたって、難しい人ね」とダヒラは言った。
「途方にくれているのさ、それだけなんだ。人間も多すぎる、場所も多すぎる」
「でも、遠い場所はいやなんでしょ」
「そんなところ、あるのだろうか」
「飛行機が世界を狭くしたなんて言わないで。そうなっても、遠い場所はあるはずなのよ」
「ある種の人たちにとってはね」
ゆったりと彼女は立ちあがった。長い美しい、ものうげな動作でたばこを灰皿に落とす。
「もしあなたが、そこに行ける飛行機を見つけたら…」
「もちろん」
ダヒラはすばやくほほえみ、消えた。あとに残ったのは、彼女の香りと私の内なる声だけであった。その声は私にどなりつけた、彼女を追え、連れもどせと。この声の方が、彼女の移り香よりも、ずっと長つづきすることになるだろう。
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