神々の夢のなごり

月の光のしずかにすべりゆくとき、想ひがすべてのうへに在るとき、我が目には波はうなばらと映らず、森は樹々のあつまりとはみえず、天空をかざるは雲にあらず、峪や丘はもはや地のおきふしとはみえず、うつし世はうたかたの如、すべては神々のみたまふ夢のなごりなり。 シェーンベルク : Gurre-Lieder

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春の雪 三島由紀夫「春の雪」  gallery 10

旗のやうに風のためだけに生きる。自分にとつてただ一つ真実だと思はれるもの、…

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2019.11.10「鴨頭草」
本棚から何の気なしに大岡信〈第六・折々のうた〉を手にとり、開いたページに、石田波郷の句が載つてゐた。
〈朝顔の紺のかなたの月日かな〉

「青という色は天上的な色。限りなく人の心を非日常の世界へいざなう力をもつ。波郷は朝顔の深く清新な紺色に、時の彼方へむけて望郷の思いをいざなう力を感じとったのである」大岡信

去年も今年も、朝顔の苗を植ゑる気力がおきなかつた。そのかわり、うちの庭に毎年自生する露草を自然のままにまかせてみた。露草は庭の隅を選ぶやうにして花を咲かす。邪魔にならない。〈知足安分〉を心得てゐる花だ。

露草の古名は、鴨頭草〈つきくさ〉である。

叢の古代日本の よろしさー。
 鴨頭草の 縹深き瞳ー
 たびらこの空色のー小さき紋章ー。 釈迢空〈近代悲傷集〜なつぐさ〉

三好達治は〈花筐〉で、露草を〈つゆ艸〉としてゐる。

〈かへる日もなき〉
かへる日もなきいにしへを
こはつゆ艸の花のいろ
はるかなるものみな青し
海の青はた空の青

〈命つたなき〉
命つたなき身と思へば
ゆふべの空ぞあふがるる
色香ともしき艸の花
名を知らぬさへあはれなる

庭に、ひともとの雑草がある。稲に似るがちいさい草だ。風がない日に、葉先が、稲穂のやうな白い花がふるえる。常世の風に、ふるえてゐる。