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1 プルースト・楕円形の肖像
画の額装はいまだに未完成。早く公開したいのだが。風に吹かれて~、以下は知人に尋ねたところ、マルセル・プルーストの詩と判明。

2 三好達治「『花筐』・わが名をよびて」
三好達治、詩集「花筐」から、「わが名をよびて」。三好はかつて国民詩人と言はれていた。日本には現在「国民」は不在で、「市民」とよばれる人々しか見あたらないやうである。

3 フィディイレ 〈H・デュパルク作曲、詩・ルコント・ド・リイル、翻訳・齋藤 磯雄〉

花さく牧〈まき〉に百々千々〈ももちぢ〉の泉あふれて集〈つど〉ひより
  苔むす流れ 遠方〈をちかた〉の
叢林〈しげみ〉に消ゆるこの斜面〈なぞへ〉 ポプラの葉陰〈はかげ〉さはやかに
  褥〈しとね〉に敷かむ若草や

おおフィディイレよ、憩へかし。 葉簇〈はむら〉のうへに耀きて
  仮睡〈うたたね〉さそふ、真昼時
苜蓿〈つめくさ〉過〈す〉がひ麝香ぐさ、 しづこころなき蜜蜂の
  翅音〈はおと〉のみなる日の盛り

咽〈むせ〉ぶがごとき熱き香は、 小径の角〈かど〉に渦巻きて
  萎〈しな〉ゆる麦の紅き花
小鳥のむれは翼もて小高き丘を掠〈かす〉めつつ
  野うばらの影、 索〈もと〉めゆく

さはれ燦めく日輪の、やがて彼方に傾きて
  炎〈ほむら〉しづもるそのときは
こよなく美〈は〉しき微笑〈ほほえみ〉と妙〈たへ〉にうましき接吻〈くちづけ〉に
  焦るる胸を、癒せかし

アンリ・デュパルク 千八百四十八年ー千九百三十三年
フランクの弟子としてのデュパルクの歌曲には、ワーグナー、シューベルトなど、さまざまな影響の跡をとどめながらも、彼の個性を抜きにしては語り得ぬ独自の世界を獲得している。
千八百八十二年作曲〈フィディイレ〉
デュパルクは光の画家のように、半音階的転調の微妙なニュアンスをはじめ、殆ど絶え間なく揺らぎゆく転調の綾なす色あいにより、フィディイレの面影を描き出してゆく。

4 「アレキサンドリア四重奏」二度トコノ世デハ
ロレンス・ダレル「アレクサンドリア四重奏」ー「ジュスティーヌ」
「この都会の女たちは、快楽にふけるのではなく、苦痛にふけるのだ。もっとも知りたくないものを探し歩くのがその運命なのだ」

Jamais de la vie 〈ニ度トコノ世デハ〉といふ香水の名は、作者の創作のやうである。フランスの某化粧品メーカーに、ルージュの色として登録されてゐるが、香水としての名前はみあたらない。

5「アレキサンドリア四重奏」記憶の都市
ロレンス・ダレル「ジュスティーヌ」
「この都市は袖口にのこる香水の香りのように、私たちの心にすがりつく…記憶の都市」
背景は、手塚治虫の「メトロポリス」から拝借した。彼への感謝のこころを込めて。  

6 ゼルダの伝説・はいらるの岬
ゼルダの伝説の地…ハイラル。その東方に海が開け、突き出た半島のつけねに岬がある。まさに属目の詠といへやう。
原詩、三好達治「春の岬」

7 バルトーク「弦楽四重奏曲第三番」
プスタ…ハンガリーの大草原
バルトーク全盛期の「弦と打楽器とチェレスタのための音楽」第一、第三楽章。原子爆弾が落ちた後の風景を描写する、バックグラウンドミュージックとして、これほどふさわしい音楽は、他にないだらう。アメリカに亡命してからは、彼の張りつめた「弦」が緩んだ。そして「第三ピアノ協奏曲」で、祈りが生まれた。

「バルトークは神なきバッハの可能を明証する。」吉田秀和「ベーラ・バルトーク」

8 在原業平・HERE TO HERE
隅田川のほとりに佇んだとき、業平の心にひびいていたものは…。「京にありわび、身を用なき者に思いなして」東にくだることからひらかれた抽象的な美の世界。「いとどしくすぎゆく方の恋しき」をのりこえ、退廃的でありながら倫理的な美の世界を選びとつた業平、さういふ彼にふさわしい音楽がある。
アルバム「HI-FLY」より「HERE TO HERE」
JAKI BYARD (p):RON CARTER (b):PETE LA ROCA(ds) 

9 村上春樹的ヘアーをめぐる考察
人間がハダカでいて美しく見えるのは、三歳ぐらいまでの幼児だけであらう。それが美しく見えるのは、生得の「ハダカ」という名の衣装を、まとってゐるからである。  

10 塚本邦雄・世界の終わり
塚本邦雄「序破急急」より、作者不明、国籍不明の詩。おそらく彼の作。

11 山口瞳「わが町」
私が東京にゐた頃、この作品が新聞の日曜版に連載されてゐた。隔週だつたやうな記憶がある。一話一話読みきりで全二十五話。舞台は国立。山口瞳の「せんせい」と地元の人達との会話で、物語が進行する。小市民的な作品だが、山本周五郎の「青べか物語」の木霊が微かにある。私がもつてゐるのは、柳原良平のカット、装幀の単行本。偶に取りだして、少し読んでは本棚にしまふ。

十代の頃、友人を訪ねて国立に滞在したことがある。その頃、駅前の「ロージナ茶房」にはピアノが置いてあつた。私達が客席に座ると、ピアノの傍に佇んでゐた、浮き世離れした風情の女主人が、私を珍しい動物でも見るやうにして見てゐた。そのひとのからだは、靴底が床から1センチ位浮いてゐるやうに見えた。
今も「ロージナ茶房」は健在である。「ロージナ」とはロシア語で「匙」といふ意味だと聞いたことがある。山口瞳も贔屓にしてゐた店のひとつだつた。

12 ドビュッシー「弦楽四重奏曲ト短調より、第三楽章」

あさき夢 壁に消えゆく夕日影 

第三楽章
「アンダンティーノ、ドゥースマン・エクスプレシフ〈穏やかで表情豊かに〉八分の六拍子。

三部からなる。第一部では全楽器に弱音器がつけられ、まず四小節の導入部のあと、第一ヴァイオリンが静かに第一主題を奏でる。これがチェロに移り、名残を惜しみながら消えてゆくと、八分の三拍子の第二部となる。ここでは、ヴィオラのレチタティーヴォ風の導入部があり、弱音器がはずされると、ヴィオラが第二主題を美しくうたい出す。この主題も基本主題と無縁ではない。これが徐々に盛り上がり、ヴァイオリンによって高らかにうたわれ、それが次第に静まり行く過程で、次々と弱音器がつけられて、チェロの持続音から第一部の再現である第三部へと入ってゆく。再現と言っても、響きはまったく違うものになっていて、第一部の静寂な趣と異なり、恍惚とした情感を漂わせている」

音楽之友社「最新名曲解説全集」

13 マルセル・プルースト「失はれた時を求めてーヴァントゥイユのソナタ」
ヴァントゥイユのソナタを作品にする時、リヒテルの力強いひと言が私の背中を押してくれた。従つて、フランクの〈ヴァイオリンソナタ〉を念頭におき、この作品を描いた。

「オイストラフと演奏したのは、かなりおそくなってからです。〈中略〉われわれが共演した三つか四つのプログラムのなかで、多少意見が違ったのはフランクのソナタに関してのみでした。もちろん彼は見事に弾きました。ただ、サロン音楽のようにみなして、あまりまじめに考えていませんでした。私のほうはフランクが好きで、とくにこの驚嘆すべきソナタは大好きでした。結局これは、プルーストにおけるヴァントゥイユのソナタではないでしょうか」 モンサンジョン「リヒテル」

このソナタのモデルについては、いくつかの参考書や資料を読んでみたが、以下の文章を引用してこの問題と離れることにする。

「プルーストによる精細で執拗なまでの音楽の記述は、ヴァントゥイユのソナタや七重奏にモデルがないはずがないとの印象を与えずにはいない。実際プルーストは、アントワーヌ・ボスコとジャク・ド・ラクルテルに宛てた書簡に、モデルとなつた音楽について言及しているのである。書簡によれば、ヴァントゥイユのソナタは、主にサン=サーンスのヴァイオリン・ソナタに由来し、しゃがれ声の冒頭はフランクのソナタであり、フォーレのバラードである。トレモロの震えはワグナーのローエングリーンのプレリュードである」 安永愛「プルーストと弦楽器」

14 A long time ago in a White Beach
海から帰つた私たちは、胡瓜のサンドウィッチをたべ、ビールを飲んだ。暫くは何事もない日常が過ぎていつた。
夏も終りの或る日、私たちはちいさな諍いをした。はじめ波紋にすぎなかつたそれは、やがて大きなうねりになり、ふたりの間をひろげていつた。私たちは短い話し合ひをし、女は私のところから去つていつた。その時から私は、胡瓜のサンドウィッチを口にしたことはない。

 

Alfie〈Burt Bacharach : Hal David〉

Without true love we just exist, Alfie
Until you find the love you've missed you're nothing, Alfie
When you walk let your heart lead the way
And you'll find love any day, Alfie, Alfie

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