世界の終わりー汝の隣人を殺せ

村上春樹 c わが町
世界の終わり

世界の終り

汝の隣人を殺せ
ある六月の朝その声に従つて
若い大工が隣の老いた漁夫を撲殺する
大工は翌朝その隣の四十後家に毒をのまされた
四人目の殺人者は警官で三人の子があり
五人目の殺人者は殺し終わるのに三日がかり
殺し疲れて祈祷台で居眠りする牧師は
隣の鉛管工に縊られて暗渠にうかぶ
西から東にへ
鼠花火のように殺人が袋小路を走り
八人目の老嬢の看護婦を刺し殺した私が
一人残されて
今年は空梅雨 朝風が錫色に光り
門の前に「世界の終り」という美しい
花文字の看板が立つ
私を殺しに來る者がいない
世界が終らない
私は撲殺された死者に殺されに行かねばならない
汝の隣人を殺せ 汝の隣人を…
聞き覚えのあるテープレコーダーの
乾いた声がその時はたと断たれる

〈塚本邦雄によると、作者不詳の詩〉

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