映画「四月物語」

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四月物語

ラストシーン

卯月が先輩のゐる書店から帰らうとすると、雨が降つてくる。
先輩〈傘、持ってきなよ〉
卯月〈大丈夫ですから〉

と、傘を貸さうとする先輩のことばを振り切つて自転車を走らせると、雨はますます激しくなる。
やむなくギャラリーの入り口で雨宿りをする。そこにダンディな紳士が現れ、卯月に自分の持つてゐる、店で借りた傘を貸してくれる。その借りた傘で本屋に戻って
卯月〈やっぱり傘貸してください〉
先輩〈傘…、持つてゐるじゃない〉
事情を話すと、忘れ物の傘を何本ももつてくる。卯月が赤い傘を選んで開くと、傘の骨が折れてゐる。

先輩〈こっちがいいんじゃない〉
と黒い傘を開くと、同じく骨が折れてゐる。
卯月〈これがいいです、これでいいです〉

と、最初に手にとつた赤い破れ傘を持つて、ギャラリーに引き返す。
先程の紳士に貸してくれた傘を返す。
紳士〈いやあ、たすかつたよ。店にはあれ一本しか無くてね〉
卯月は紳士が去つていく姿を見送る。空を見上げると土砂降りの雨。しばらく止みさうにない。

岩井俊二による主要作品解説、「四月物語」
「舞台は東京の郊外、武蔵野。大学進学で上京したひとりの女学生の日常が、水彩画のようなタッチで静かに描かれていく。ちゃんとした台本すらなく、メモ書き程度のショートストーリーみたいなものがあっただけで。適当に撮っていったというか、いろんな計算をして話の辻褄を合わせるよりも、『桜吹雪がいい感じの絵で映っているほうがいいでしょ』みたいなこと」

松たか子へのインタビュー
「あらゆる意味で夢を見ているような日々でしたね。演技がどうこうというよりも、岩井さんや現場に翻弄されるように、言われるままに、一生懸命動いていました。加藤和彦さんは、びしょ濡れになる撮影に自前のカッコいいオーダースーツを着ていらして、本当にびしょ濡れになって、その姿のまま待ち時間に微笑みながら本を読んでいたり…。私『四月物語』のことはなぜだかとてもよく覚えていて…たくさんの素敵な大人たちがいましたね」
雑誌「SWITCH」岩井俊二特集

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