ロフティング「ドリトル先生航海記」

子供と魔法   田園住宅
ドリトル先生航海記

「わたしの名まえは、トミー・スタビンズといいます。「沼のほとりのパドルビー」という町の靴屋、ジェーコブ・スタビンズの子どもでありました。私が九歳か十歳のころのことでしたが、…そのころ、パドルビーは、ものしずかな小さい町でした。町のまんなかを、ひとすじの川が流れておりました。その川には、王者橋という、たいへん古めかしい石橋がかかっていて、橋のたもとには、市場がありました。橋をわたった川むこうは、墓場になっておりました。
たくさんの帆かけ船が、海からその川をさかのぼってきて、この橋のそばに、錨をおろしました。私はいつもそこに行って、船の荷をおろす水夫たちを、川岸の石垣の上からながめておりました。水夫たちがロープをひっぱりながらうたう、めずらしい歌も、私はいつのまにか覚えてしまいました。そして、石垣に腰をかけ、私は水の上にむけてたらした足をぶらぶらさせながら、水夫たちといっしょに、その歌をうたって、自分も、水夫になったような気持ちを味わってみるのでした。
船がパドルビーの教会をあとに、ひろい、さびしい沼を通りぬけて、海のほうにむけて川をくだってゆくのを見ていると、私はいつもその船といっしょに航海したいと思いました」

井伏鱒二・訳

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