トルーマン・カポーティ「草の竪琴」

ビチィズ・ブルー 0 わたしを離さないで
glassharp

僕がはじめて、草の竪琴のことを聞いたのはいつのことだったろう。あの秋をむかえるずっと前から、僕たちはムクロジの木に住んだことがあったけれど、あれはたしか夏が終わってまもないころだった。もちろん教えてくれたのは、ドリーをおいて他にはいない。誰もその呼び方を知っている者はいなかったのだから、草の竪琴というその名を。
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その丘の裾は、季節ごとに色の変わる丈の高いインディアン草の茂る草原、秋、九月の下旬に見に行くといい。茜色に染まった草原に炎のような真紅の影がゆるやかにうねり、秋の風が乾いた草の葉をかきならして、吐息にも似た旋律、さまざまな声の竪琴の音を響かせている。
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僕たちが草の根を採りにその森に入っていったのは、たしかこのような九月のある日のことだった。ドリーが言った、「聞こえる? あれは草の竪琴よ。いつもお話を聞かせているの。丘に眠るすべての人たち、この世に生きたすべての人たちの物語をみんな知っているのよ。わたしたちが死んだら、やっぱり同じようにわたしたちのことを話してくれるのよ、あの草の竪琴は」 

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