G・マルケス「わが悲しき娼婦たちの思い出」

きみのためのバラ   眠れる美女
わが悲しき娼婦たちの思い出
満九十歳の誕生日に、うら若い処女を狂ったように愛して、自分の誕生祝いにしようと考えた。性的能力は私自身ではなく、女性に依存しているので、自分の性的年齢を気にしたことはなかった。それに、女性はその気になれば、相手がどうして、なぜだめなのかをすぐに見抜くものなのだ。
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デルガディーナは十時から部屋で待っているわ。と彼女が言った。とても可愛くて、清楚で、育ちのいい子なの。
女の子はぐっすり眠っていた。大きなベッドの上で、母親の胎内から生まれたときと同じように、素裸で無防備な姿で横たわっていた。肌の色は浅黒く、暖かい体温が感じ取れた。膨らみはじめたばかりの乳房はまだ男の子と変わりなかったが、そこからは今にもはじけ出しそうな秘められたエネルギーが感じ取れた。
明け方目が覚めたが、一瞬、自分がどこにいるのか理解できなかった。私にとっては新しい体験だった。激しい欲望に突き動かされることも、妙に気恥ずかしい思いをすることもなく、眠っている女性の裸体を見詰めて、信じられないようなよろこびを得ることができた。
デルガディーナは明け方の柔らかい光に包まれてまだ眠っていた。仰向けになって両腕を大きく開き、ベッドを占領して眠っているその子を見て、この子は間違いなく処女だと感じた。私は、神のご加護がありますようにと彼女のために祈り、もち金のすべてを枕元に置くと、額にキスをし、もう会うこともないだろうと思って別れを告げた。明け方の売春宿はすべてそうだが、あの店も天国に一番近いところにあるように思われた。改めて九十歳という年齢の重みを感じ、死ぬまでに残された時間はわずかしかないと考えはじめた。

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