レイモンド・チャンドラー「プレイバック」 |
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彼女は私の腕の中で啜り泣きをはじめた。 いくらでも泣くがいい、ベティ。気の済むまで泣くといい。ぼくが、ぼくがもし…。 そこまでしか言えなかった。彼女は体をふるわせて私にしがみつき、唇と唇とがあうところまで私の顔をひきよせた。 他に彼女がいるの? 彼女は私の歯のあいだから低い声で訊いた。 いたこともある。 特別な女のひとよ。 一度だけいた。わずかな間だった。しかし、もうずっと昔のことだ。 もっと抱いて、私はあなたのものよ、私のすべては、あなたのものよ。 |
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「プレイバック」〜23章 | ||
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