マイルスはあの頃、自分の音を模索していた。ただ、まだ若くて、どうしていいのか解らなかった。でも森で聞いたあの声は、いつもあったはずだ。あの声に到達できれば、天国だといつも言っていた。
「確か6歳か7歳の頃だ。夜道を歩いていたら、突然森の中から、音楽が聞こえてきた。男と女が語り、歌っていた。特に女の声がすごかった。その女の歌声が、俺の血の中に入り込んだ」
彼は立ち竦んだ。その歌声があまりにも澄んでいたから。それに圧倒された。ブルースのような声だけれど、胸が痛むほど激しかった。彼は生きている間にそこに到達したいと願い続けていた。でも、その願いは叶わなかった。
NHKドキュメンタリー、マイルス・デイヴィス「巨匠たちの青の時代」 |