吉田健一「私の食物誌」

反り橋   春の雪
アスプルンド邸煖炉
通りがかりに思わずひと撫でしたり、「ムーミン」と呼びたくなる気持ち、読者にもお分かりいただけると思う。中村好文「住宅巡礼」
私の食物誌
併しそれよりも何となし酒の海に浮かんでいるような感じがするのが冬の炉端で火に見入っているのと同じでいつまでもそうしていたい気持ちを起こさせる。この頃になって漸く解ったことはそれが逃避でも暇潰しでもなくてそれこそ自分が確かにいて生きていることの証拠でもあり、それを自分に知らせる方法でもあるということで、酒とか火とかいうものがあってそれと向かい合っている形でいる時程そうやっている自分が生きものであることがはっきりすることはない。そうなれば人間は何の為にこの世にいるかなどというのは全くの愚問になって、それは寒い時に火に当たり、寒くなくても酒を飲んでほろ酔い機嫌になる為であり、それが出来なかったりその邪魔をするものがあったりするから働きもし、奔走もし、出世もし、若い頃は苦労しましたなどと言いもするのではないか。
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