泉鏡花「夜叉ヶ池」より

仏はつねに   あちら側
水の花

花は人の目を誘ひ、水は人の心を惹くと申します。はじめてあのひとと逢つたときそれを神の恩寵と信じたのは私のこころの弱さだつたのでせうか。黄昏時、逢ひたいという思ひに駆られて何時も水辺にきてしまふ。でも手を差し伸べても過ぎ去つたものへは永遠に届かぬもの。まことに人の一生は業の如く、出会ひは災いに似てゐます。
ふとした気配に…母に似た香り…と目を凝らす水のいろに映るのは紫陽花…思ふまもなく影は消え、みなもは黝ゝとしたいろを湛へるばかり。

homegallerynotes
home
notes 2
gallery 2