レハール〈メリー・ウイドウ〉のワルツ

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メリーウイドウ

口には出さねど
楽の音は囁く
"愛して、私を愛して"と。

まへにうしろに、左に右に
運ぶ足の一つ一つが語るのは
"愛して、どうか私を愛して"と

握る手はいつだって
こんなにもはつきり
"嘘じゃない、本当だよ、君は僕が好きなんだ"と

ワルツのステップごとに
魂もいっしょに踊り出し
ちっちゃな心臓も跳ねたり弾んだり
"僕のものになっておくれ、僕のものに"と戸を叩く

口には何も言はずとも
音に出してはゐるんだよ、絶へず、ひとときもやすまず
"私はあなたが大好き、好きで好きで大好きなのよ"と

 

「一学期が終わりに近づきつつあるころ、友人と寝ころんで雑談しながら、休みに北海道の両親の許に帰って、いちばんに会いたい人は誰か?ときかれたら急に、兄貴と一緒にドレミファで私を悩ました女の人の顔、その姿、その声が思い出されてきた。あまり強くなく、浄らかというより鼻声に近い柔らかな音の、母の声とも姉の声とも、いや私の知っている誰の声とも違う声の持主、その人が無性に懐かしくなった。そうして、その声はドレミファじゃなくて〈メリー・ウィドウのワルツ〉を歌っていた」

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