塚本邦雄「還らざるべし」 |
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昭和二十年代後半から四十年代にかけて、現代短歌の世界には、画期的な名編輯者が輩出した。中井英夫、杉山正樹、冨士田元彦、このベスト三の名は、短歌史に明記されてゐるが、その第一陣中井英夫の登場は最も印象的である。辣腕家として、かつ先駆的な美学の持主として、忘れ得ぬ一人であり、殊に新人発掘には並びない手腕を発揮した。 忘れ得ぬ感動的な「特輯」が、「短歌」編輯長時代に数多あるが、その中の最たるものは昭和三十五年十月の「われ、深き淵より汝を呼べり」であらう。これは昭和三年八月生まれの佐々木悠二と呼ぶ無期懲役囚の短歌をクローズアップした、大胆にして一種スリリングな試みであつた。殺人犯として入獄以来、その時十年を閲してゐたと伝へる。 草の根より我を見張りてゐしごとき蜥蜴のいたく澄みし目に遇ふ 塚本邦雄「還らざるべし」 |
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