皇后宮美智子さま 祈りの御歌

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祈りの御歌

本書「セオト」のなかで、三人の御子をお詠みになった御歌は、全部で五首、かかげられています。いずれもおおらかな造形美をたたえ、しかも、霞みつつ、たゆたいながら、自然の奧処から寄り来るものの気配に、繊細な注意が失われることがないのです。まさに、日本芸術のエリクシールさながらに。
わけても、

双の手を 空に開きて 花吹雪 とらへむとする 子も春に舞ふ

風ふけば 幼き吾子を 玉ゆらに 明るくへだつ 桜ふぶきは

の鮮やかさは、どうでしょうか。
まるで一双の桃山屏風さながらに、左手に、さっと、桜吹雪のなかの御子の舞い姿を描きあげ、右手に、返す詞章の絵筆で、一瞬、花びらの渦に掻き消える可憐なその姿を、同じ電撃の手練をもって活写されるかのように。
ところで、美智子妃は、乳人の風習によらず、ご自分で授乳された稀なる母君の御一人でした。もっとも、そのことからも、宮中においては「革新的」すぎると見られることを免れがたかったのでしょうけれども。
しかしながら、あるいはそのような母性的御体験あればこそではなかったでしょうか、背の君、皇太子殿下の御誕生の夕べを、星の王子さまさながらの感懐をこめて詠いあげられた「冬銀河」の、あの素晴らしいメタファ(暗喩)が生まれたのは−。

冬空を 銀河は乳と 流れゐて みどりご君は 眠りいましけむ

すでにして美智子妃は、二人の皇子と一人の皇女の母君であらせられました。 竹本忠雄「皇后宮美智子さま 祈りの御歌」

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