西行「富士のけぶり」其の二

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西行2

東の方へ修行し侍りけるに 富士の山をよめる

風になびく富士の煙の空に消えて
ゆくへも知らぬわが思ひかな

西行は「富士」の歌を自賛歌の第一にあげていたと、慈円「拾玉集」は伝えている。この明澄でなだらかな調べこそ、西行が一生をかけて到達せんとした境地であり、ここにおいて自然と人生は完全な調和を形づくる。万葉集の山部赤人の富士の歌と比べてみるがいい。その大きさと美しさにおいて何の遜色もないばかりか、萬葉集以来、脈々と生きつづけたやまと歌の軌跡をそこに見る思いがする。

白洲正子

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