島本理生「ナラタージュ」

中村苑子   夢十夜
ナラタージュ

これからもずっと同じ痛みをくり返し、その苦しさと引き替えに帰ることができるのだろう。あの薄暗かった雨の廊下に。そして私はふたたび彼に出会うのだ。何度でも。
今でも呼吸するように思い出す。季節が変わるたび、一緒に歩いた風景や空気を、すれ違う男性に似た面影を探している。それは未練とは少し違う、むしろ穏やかに彼を遠ざけているための作業だ。記憶の中に留め、それを過去だと意識することで現実から切り離している。
正直なところ、そうでもしないと私は今でも彼に触れた夜を昨日のことのように感じてしまうのだ。

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