マーラー「『大地の歌』・告別」

青べか物語 c 蕪村「北寿老仙をいたむ」
告別の歌

「曲は終りに向かって、歩みを進め、友は深山に向かって、さすらいの旅に出る。そのあと、残るのは『白雲のつきぬ大空』であり、それは永遠にはるかなる彼方までのびてゆく。
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歌声は『永遠に、永遠に』とくりかえしつつ、静かに消えてゆき、それに合わせてフルートとオーボエが『憧れの動機』を、ppで、それからpppの聞えるか聞えないかの微かな響きの中で、終りのない終りに向けて、何十小節にもわたって、ひきのばしてゆく。
それと同時に、オーケストラ全体の描く音の風景も全面的に変る。明るく透き通った珠を転がすようなチェレスタの音が、それまで表現主義的濃厚さの密室の中に把えられていた私たちの耳と心を解放し、次第に拡がってゆく沈黙の世界の中にとりこませる。
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《告別》の音楽は最後にハ長調のドミソの主三和音できれいに終息するかのように見えて、実はそこにフルートとオーボエの奏するラの音が鳴り続けていて、やまない。こうして、レッキとした不協和音で曲が終るというのは、当時の西洋音楽の伝統からみて、はなはだ異例な—ほとんど画期的といってもよいような—事件である。
しかし、この不協和音はpppの静けさで奏され、耳のある人にしか聞こえない。」
吉田秀和「『永遠の故郷ー真昼』・告別」

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