安東次男
「花づとめ」
山あひの町は日ぐれがはやい。水面は夕映をうつしはじめてゐる。
私は母と縁側にすわつてゐる。
ひぐらしの音が聞こえてきた。私は庭におりて静かにちかづいた。
そのとき激しい翅音。
とりのこされた私は、なにもゐない夕ぐれの空を見あげてゐた。
私の少年時代は、この時に終つたのだらう。
home
notes8
gallery8