エリック・アンブラー「真昼の翳」

l c ホフマン「家督相続異聞」
真昼の翳
「あたしたち、ずいぶん陽に焼けたわ。国へ帰ったら、さっそく、なんとかしなければならないわ。」
それは、ミス・リップの声で、彼女はいつのまにか、となりの部屋へきていた。
「天気つづきだからな。」
「あんたの髪、びしょ濡れよ。」
そのあと、沈黙。そして、しばらくすると、彼女のうめき声といっしょに、ベッドがきしんだ。二分ほどのあいだ、おれはこのふたりが、そのまま午睡にうつるのではないかと、かすかな希望にとりすがっていた。しかし、かれらの動作が、またはじまった。息づかいを聞くことができたが、それは、眠っている者の息づかいではなかった。さらに、何分かたって、べつの物音がした。ふたつの背中をもった一匹のけものが、活動を開始しているにちがいない。
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