平均律クラヴィーア曲集・第一巻

l c
平均律

いろいろ思ひ出して来ると、十年二十年の間にも悲しい有為転変がある。
与はその家を辞した後に、海浜に赴いて、文色も分からなくなるまで海の面を眺めた。成程人の世はかく変るが、然し二十年三十年、否、否更にその前にも或はわかき人のまた今の予の如く、はかなき幻像と悲しい感情とを抱いて、かく海の前に立ち尽くしたものがあるかも知れぬ。 木下杢太郎

〈石竹花〉
夕暮がたの浜へ出て
二上り節を唄へば
昔もかく人のうたひ候と
よぼよぼの盲目がいうた。
さても昔も今にかはらぬ
人の心のつらさ、懐かしさ、悲しさ。
磯の石垣に
うす紅の石竹の花が咲いた。

homegallerynotes

home

notes4

gallery4