林檎の木 ゆさぶりやまず 逢いたきとき おまへは林檎の木を植ゑた。しかしその林檎の木を揺さぶるとはどういふ行為だ。恋しき時こそもつと沢山の林檎の木を植ゑるべきではないのか。萌える雑木の梢を吹く、五月の風のざわめきの中で、「逢ひたい」といふおまへの問いかけは夢にしか過ぎなかつた。おまへがうけとつたのは、微笑みだけだつた。 林檎の木をゆさぶってはいけない。日の光の遍くゆきわたる時を通じて、木の陰のうちに豊かさを見いだすのだ。