安西水丸「草のなかの線路」 |
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ひさ乃は病院から出ることなく逝った。五月のさわやかに晴れた週末だった。仕事場に電話を受け慌てて駆けつけたが、すでにひさ乃は仏になっていた。白い顔は眠っているように見えた。喉の腫瘍は悪性の癌だったのだ。 長い雨期がすぎて、夏になった。八月は猛暑がつづいた。千香は秋には四国にある身寄りのない子供たちばかりの施設に預けられることになった。松山の親戚たちが決めたことらしい。もちろん千香はまだそのことを知らない。ぼくはまったくの無力だった。 |
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