C・シマック〈都市〜パラダイス〉

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パラダイス

木星に到達した人類は、転身装置を使って〈ローパー〉という生物に変身した隊員を、アンモニアとメタンの大気の中へ探査のため送り出したが、誰一人として基地に帰ってこなかった。そして今回は、ケント・ファウラーと彼の愛犬タウザーを変身させて送り出し、やはり帰らないかと思われたそのとき…

「タウザーが、横で身動きした。ファウラーは、この嘗ての愛犬の、湧きあがるような親愛の情を感じ取った。この親愛の情も、友情も、愛も、以前からずっと存在したに違いないのだ。だがそれは、彼らが犬と人間の関係を保っていた間には遂に知ることはできなかった…
犬の思考がファウラーの頭脳に滲みこんできた。〈人間に戻ってはいけないよ、あんた〉
ファウラーの答えは殆ど哀訴にちかかった。〈しかし、仕方がないんだ、タウザー。おれはそのために基地から送り出されたんだ。木星の真の姿を知るために。そしていま、俺は答えを見出した。基地の仲間に答えを教えてやれるんだ〉」

人間にまた戻らなければならないという苦痛に堪えて、ケント・ファウラーが基地の人間にもたらした報告は、
この世界は、一言で言い表せば〈パラダイス〉そのものであった。

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