川端康成「伊豆の踊子」

フランク・ロイド・ライト r
伊豆の踊子
仄暗い湯殿の奥から、突然裸の女が走り出して來たかと思ふと、脫衣場の突鼻に川岸へ飛び下りさうな恰好で立ち、両手を一ぱいに伸ばして、何か叫んでゐる。手拭もない眞裸だ。それが踊り子だつた。若桐のやうに足のよく伸びた裸身を眺めて、私は心に淸水を感じ、ほうつと深い息を吐いてから、ことこと笑つた。子供なんだ。私達を見つけた喜びで眞裸のまま日の光の中に飛び出し、爪先で背一ぱい伸び上がる程に子供なんだ。私は朗らかな喜びでことことと笑ひ續けた。
頭が拭はれたやうに澄んで來た。微笑がいつまでもとまらなかつた。
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