シェンキェヴィッチ「クオ・ヴァディス」

軽い小舟に乗って   何時か見た夢
クオ・ヴァディス

ペトロニウスが漸くギリシア人を呼び寄せて暫く自分の静脈を閉じさせたのは、タナトスが自分を永遠に眠らせる前にもう少しヒュプノスに身を委ねたいと思つたからである。果たして眠り込んだ。暫くして目が覚めると白い花のような乙女の頭が胸の上にあった。其れから又静脈を開かせた。歌手はペトロニウスの合図でアナクレオンの歌を歌い、キタラ琴は低く伴奏した。ペトロニウスは次第に青ざめていつたが、それでも最後の響きが静まると、客人たちの方を向いてかういつた。
「…わたしたち二人と共に…滅びる…」
しかし何が滅びるかは言へなかつた。その腕は最後にエウニケを抱き、やがてその頭はクッシヨンの上に落ち、息が絶えた。

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