神々の夢のなごり

月の光のしずかにすべりゆくとき、想ひがすべてのうへに在るとき、我が目には波はうなばらと映らず、森は樹々のあつまりとはみえず、天空をかざるは雲にあらず、峪や丘はもはや地のおきふしとはみえず、うつし世はうたかたの如、すべては神々のみたまふ夢のなごりなり。 シェーンベルク : Gurre-Lieder

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azisai 泉鏡花「紫陽花」  gallery 3

夜はいつか鏡花の國となりにけり夢見るごときともしびのいろ

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2021.11.13「ろじゃめいちん」
本の整理をしてゐて、一冊に目がとまつた。司馬遼太郎「街道をゆく巻一、湖西のみち」。目次で三輪山の件に、巫女の話があり、印象にのこつてゐる。

「山中を歩くうち、素足の老女がむこうから歩いてきた。なにやら白っぽい着物を着て、ヒモで腰のあたりをむすんでいる。かごのなかに小鍋が入っていて、鍋に豆腐が一丁入っていた。
『こんにちわ』
と会釈してくれたから、私はそれに勢いを得て話をきいてみた。お詣りですか、というと、いつもこの山に居まンねええ、と吉野の山のあたりの古雅ななまりで答えてくれた。
『参籠ですか』
『ええ、そうですねえ』
『お滝?』
『いろいろですわいなあ』
と、ゆっくり、節まわしのついた言葉でいう。これは巫女ではないかと内心驚きつつ、さらにたづねてみると、吉野の奥のうまれで、二十三年この三輪山の中で暮らしているという。
ー略ー
別れて、メイチン君にささやいた。
『やはり居るんだな』
古代や沖縄だけではなく三輪山にも居るという意味である。
『ひとが知らないだけですね』
と、メイチン君はよほど感動したらしく、目もとをすこし赤ばませていた」

メイチン君こと、ロジャ・メイチンとは、英国はケンブリッジ出身の日本語学者である。司馬とは縁あつて知り合ひ、今回の紀行に同行した。日本人になつて、日本の大学の研究室で勉強したいらしいが、手続きが難しくて悩んでゐる。
ひさしぶりにメイチン君の名前を目にして、彼の帰化はどうなつたのか興味が湧く。ネットで検索すると、結局帰化は叶わず、母国で2002年に亡くなつてゐた。享年59歳。彼の著書があるのを知り、古書で入手した。

ろじゃめいちん著「江戸時代を見た英国人」
著者名は「ロジャ・メイチン」でなく、「ろじゃめいちん」だ。これでは誰のことか分かるまい。何とも頑固なことである。